私にとって、酒の肴で一番好きなものが雑学、とくに歴史だ。ゆえに本書は大変ためになった。本邦初の最良のアブサン入門書である。おもしろかった!フランスが好きになった。ああ、退廃主義の象徴とそれるアブサンよ!!
私はアブサンとブッカーズを混ぜて飲む “アブッカーズ” を愛飲して身を滅ぼしてきた。目覚めて指から骨が出ていた時は反省した。1900 年以前のアブサンはどれだけひどかったのだろうか。気になる、気になる!さあ、アブッカーズを飲もう!
- アブサンぎみ
- アブサンは主にフランスでよく飲まれていたが、スイスも大切な市場であった。中でもヴォー州とジュネーヴがスイスの 2 大消費地で、15 万人が年間 50 万リットルものアブサンを口にしており、これは 1 人当たり年間で3 リットルのアブサンを飲んでいる計算になった
- 1908 年 にスイスでアブサンが禁止 (執行は 1910 年) になったが、実のところ最初に禁止されたのはベルギーで 1905 年である
- 1910 年 オランダで禁止が宣言
- 1912 年 アメリカで禁止が宣言
- アメリカのせい食品委員会のワイリーはアブサンを「人類最悪の敵。もし、アメリカ人がこの悪魔の奴隷とならずに済む策があるならば、我々はそれを実行するのみだ」と発見した
- アブサンは WW1 まで世界中で禁止された
- 一方、 フランスでは、WW1 始まるまで、相変わらず熱烈に愛飲され続けた
- フランスで国民的な酒となったが、非難も多く、フランス国内ではヒステリックな議論が展開されていた。酒類全体では 3% しかないのにだ!
- 浮浪者の気高い酔い方に心を打たれたマネ。気高い大敗主義 (デカダンス) を嗅ぎとったのだ
- アブサンの文化史: アブサン業者により庶民がお求めやすい価格に
- 泥酔時間 (アブサン・ムーン)
- やばいヴォールレースでさえも死の直前、アブサンを「愚行と犯罪の根源、政府が禁じないのなら重税を課すべき、精神疾患患者を生むもので、恥辱だ」と非難した
- 散文詩「アブサンチウムの四次元」
- アブサンの文化史: 一種の高等教育
- アブサン・グラス。女優は娼婦になり、芸術家はルンペンになる
- フランスのアブサン中毒はロンドンでひどく軽蔑された
- アブサンの文化史: ロンドンで軽蔑
- アブサン飲み … あらゆる凶悪犯罪を引き起こす言葉ではないか!
- アブサンの文化史: あらゆる凶悪犯罪を引き起こす言葉ではないか!
- トゥールーズ = ロートレックは仕込み杖にアブサンを入れて持ち歩いたことで知られている。彼は友人に「ちびちびと…だが、しょっちゅう飲まないといけない」と語る
- ロートレックはアブサンのカクテル通で、「ボルジア家」風 (毒殺で有名なスペイン系イタリア人貴族) に仕上げたオリジナル・カクテルを友人に試飲させた
- アブサンとコニャック仕立てのそのカクテルは、「地震」と呼ばれていた
- アヴァレ・トナプサント (アブサンを飲み干す) … 自分のプライドを飲み込む、もしくは間違いを認める、という意味で流行った
- アブサンの文化史: アブサン・カクテル、言葉
- ゴッホの絵にまつわる新説。なぜ、緑味がかかった黄色の色調を帯びているのか、これまで数多くの学者がこの謎に挑んできた。著者は本書でアブサンの過剰摂取に起因する視覚障害が原因であるとの推測を披露している
- ロートレックとゴーギャンが、ゴッホにアブサンと娼婦の味を教え込んだ
- アブサンを飲んだゴッホはゴーギャンを剃刀で襲うがミスった。そして、ゴッホは左の耳たぶを切り落とし、封筒に入れて、売春宿のラシェルという少女に、公書き留めて贈った。「これをしっかり持っておくこと」
- ゴッホが自殺した一方、タヒチのゴーギャンはある事実から目を背け 15 歳の若妻と天国のように暮らしていた。その事実とは、ゴーギャンが患っていた梅毒と皮膚炎である
- ジャリはよく手元にピストルを置きながらアブサンを飲んでいた
- ジャリは当初、話題作りのために飲み始めた、だが、次第に自分自身の体裁を保つために飲むようになり、やがて絶望やプライド才能から逃れるために飲んだ
- ピカソ作『アブサンのグラス』
- 17 世紀フランス宮廷の淑女の一人、クーランジュ夫人「 わたくしのアブサンは万能薬なのよ」
- ニガヨモギ = 火星の薬草
- 1792 年、フランス人の医者ピエール・オルディネール博士が考案し (しかし、1769 年には広告があったため、考案者ではない)、「緑の妖精」を広めた最初の一人で間違いない
- アンリオ姉妹が既に製造していた
- アンリオ姉妹から製造権を買ったアンリ・デュビェ少佐の娘の結婚相手のアンリ=ルイ・ペルノが、ペルノ社を創設した
- ヴァランタン・マニャン博士の動物実験
- 複数の犬に大量のアルコールを投与し幻覚症状を示して死に至るまで観察した
- 癲癇やこれに似た痙攣の症状はアルコールが引き起こしているわけではないとの結論を得た
- さらに、動物たちに少量のアブサンを胃かろ摂取させると、癲癇に似た軽微の発作とめまいの症状を引き起こすことを突き止めた
- アブサンを大量に摂取すると癲癇の発作が本格的に現れることを確認した
- ニガヨモギ (また蒸留油) の主成分ツヨン、単体でも強い毒性がある
- 今でも情熱的に研究が進められている
- アブサンと湧水、カエル実験は冗談ではなかった
- フランスでは、1874 年に 0.7ML/Y 、 1910 年には 36ML/Y 消費された
- 「 アブサンの真の姿、それは人を精神病と裁判所へ直送するものです。これこそまさに『瓶詰めされた狂気』です。きっぱりと禁酒している人だけが、犯罪者にならないと断言できるのです」
- 当時、フランス人は、ワインはアルコール中毒症の原因にならない、というとんでもない誤解をしていた
- アルコール反対運動が、反アブサンと足並みを揃えた
- ワイン愛飲者たちは支持をした
- なお、アルコール反対派の運動にもかかわらず、アブサン消費量は倍増した (笑
- 独仏戦争の際「 アブサン飲みは、屈強で誠実なビール育ちのゲルマン民族に屈することに甘んじている」
- アブサンが男を不妊症にして、出生率が低下したと言われていた
- 「 どんな酒からはじめても、後でアブサンを追い込むと、先に飲んでいた酒が 2 倍の効果を発揮するような酒だった」
- ツヨンに中毒性、精神に影響するが、やはり一番の危険はエタノールである
- ニガヨモギ (wormwood) は、ウジ虫 (worm) 草 (wood) と聞こえる
- ウジ虫が脳を蝕んでいるかのように思えてしまう
- ツヨンの摂取許容量
- ex) ネズミの体重 1kg あたり 30mg が限度。経口投与における最大の非致死量は 75mg であった
- これを人間に当てはめると、当時の一般的なアブサンの 150 ポンド (68kg) の人間が 1 オンス (約 28g) 摂取した場合、そのツヨンは人間がもっとも軽微な中毒症状を起こす 1/50 しか含まれず安全であると言える
- これは、3 人の毒物学者によって裏付けされている
- 神話植物学者 (mythobotanist) のマイケル・アルバート=プレオ
- 原書の初版は 1988 年
- 「ペルーノじゃない、生粋のアブサン、マスティカだ!混ざりっけなしの “紳士の乳” だ」
- もちろん、ペルノが本物じゃないというのは誤りである
- 訳者は開高健の小説でアブサンを知り、魅了され、原書を注文して読んだ
- 訳者のあとがきはヤンゴンで書かれた